地域はなぜ人を癒すのか④/④株式会社さとゆめ 取締役COO・長野支社長 浅原武志氏インタビュー

山梨の小菅村を訪れる若者たちを見て、浅原武志氏は「不思議な現象」だと語る。なぜこの過疎の村に惹きつけられるのか。AIが効率化を進める時代に、なぜ地域は価値を増すのか。
森は毎回違う顔を見せる
――
信濃町の取り組みは20年以上続いています。サービスに変化はありますか。

浅原 プログラムそのものは大きく変わっていません。よくサービス業は新しい商品や新しい体験を作り続けることが大事だと言われます。でも、私たちが扱っているのは、人間の根本的な部分。森には四季があります。春には山菜があり、夏には緑が深くなり、秋には紅葉が、冬には雪景色があります。その時々で香りも違うし、見える景色も違う。実は、地域に暮らしている人しか知らないものもたくさんあります。だから同じ場所でも、来る季節によって体験は変わります。その意味では、自然そのものが変化し続けているとも言えます。
20年前より、今の人は疲れている
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ウェルネス市場を見ていると、年々ニーズが増えているように感じます。

浅原 20年前より今の方が、間違いなく人は疲れていると思います。私たちのサービスが変わったというよりも、必要とする人が増えたという感覚の方が強いです。
 昔よりも暮らしに余白がなくなっていますよね。待つ時間も少なくなりました。考えなくても済むようになりました。AIも含めて、世の中はどんどん効率化しています。ますます便利になっています。その一方で、人は常に何かに追われています。だからこそ、小菅村のような場所が求められているのではないかと思います。人工物が少なく、時間の流れがゆっくりしている。そういう場所でようやくスイッチを切ることができるのかもしれません。

 

経験していない風景に、なぜ惹かれるのか
――
小菅村などを見ていると、若い世代の利用者も多いですね。

浅原 不思議ですよね。私たちの世代なら懐かしい風景だと言えます。でも若い人たちは、その風景を経験していません。それなのに惹かれる。私も興味深い現象だと思っています。焚き火を見て癒されるのも同じかもしれません。焚き火を日常的に経験していなくても、人は炎を見て落ち着きます。故郷を持たない人が故郷を感じる。そんなことが起きているように思います。小菅村にも若い女性の一人旅が多いです。外国人旅行者も増えています。長期滞在する方もいます。それだけ、今の時代に求められているものがそこにあるのだと思います。

クロモジは、まだ眠っている
――日本には豊かな自然や文化がありますが、産業化はできるのでしょうか。
浅原 大きな課題です。ただ、可能性があると思っています。例えば森のアロマです。もっと効果を研究し、きちんと価値を伝えられれば産業になります。ハーブもそうです。食もそうです。来てもらうだけではなく、その地域の価値を日常生活に持ち帰れるようにする。そこが大切だと思っています。
 以前、南フランスの香料産業の話を聞いたことがあります。小さな町なのに、香料産業によって地域全体が潤っている。地域資源を産業に変えています。日本でも同じことができると思います。例えばクロモジです。本当に素晴らしい香りがあります。日本には価値のある資源がたくさんあります。問題は、それをどう伝え、どう産業にしていくかです。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。
浅原 私たちがやってきたことは、地域の価値を見つけて、それを人につないでいくことでした。信濃町から始まり、今では全国約50地域ほどに関わっています。これからも増えていくと思います。ただ、目指していることは変わりません。地域にある価値を見つけること。地域の人が誇りを持てること。そして、その価値が産業として持続すること。人が心地よく生きられる地域をつくることが、私たちの仕事だと思っています。その土地の空気、人との距離感、暮らしのリズム。そういうものが価値になっていくのではないでしょうか。

 



expert浅原 武志(あさはら・たけし)
株式会社さとゆめ取締役COO。金沢工業大学卒業後、大手電子機器メーカーを経て信濃町役場へ入職。C.W.ニコル氏が提唱した「健康」と「環境」を軸とする「癒しの森事業」を担当し、全国に先駆けて森林セラピーを導入。40社以上の都市部企業と信濃町との連携を実現。信濃町役場を退職後は、観光・ウェルネスを軸に全国各地の地域活性化に取り組んでいる。

 

【株式会社さとゆめ 会社概要】 さとゆめは、「Local Business Incubator 〜人を起点として、地域に事業を生み出す会社〜」をコーポレートアイデンティティとする、地方創生に特化した伴走型の事業プロデュース会社。全国約50のエリアで、計画策定から事業の立上げ・運営まで、地域に伴走する。JR東日本との協業による「沿線まるごとホテル」(東京都奥多摩町・青梅市)、“700 人の村がひとつのホテルに。” をコンセプトとする「NIPPONIA小菅 源流の村」(山梨県小菅村)、地域と企業の協働による保養地づくり「癒しの森事業」(長野県信濃町)、町単独のアンテナショップ&地域商社事業「かほくらし」(山形県河北町)等、人を起点に様々な事業創出に取り組んでいる。(代表取締役CEO:嶋田 俊平、設立:2012417日、事業内容:地方創生に特化した事業プロデュース、伴走型コンサルティング URLhttps://satoyume.com/