地域はなぜ人を癒すのか③――地域の自慢、その先にある本当の価値
株式会社さとゆめ 取締役COO・長野支社長 浅原武志氏インタビュー
「人口700人の村が、30万人の市場を相手にする必要があるのか」。地方創生現場での富裕層インバウンド偏重に、浅原武志氏は異を唱える。
コンビニ弁当を食べたくない、という小さな変化
――森林セラピーや保養地づくりは、地域の農業や食関係によい影響がありますか。
浅原 そこまで波及するには時間がかかります。ただ、森林セラピーのお客様は、森を歩いた後にコンビニのお弁当を食べたいとは思いません。やはり地元の食材を使ったお弁当を食べたい。そうすると、お弁当を作れる人を探したり、宿泊施設にも地元の食材を使ってもらったり、地元のアロマやハーブティーを取り入れてもらったりするようになります。そうしたことを少しずつ積み重ねていきます。
例えば信濃町にあるホテルでは他県の米を使っていましたが、「癒しの森の宿」を名乗る以上は地元の米を使ってほしいとお願いしました。すると何十トン単位で地元農家との契約が生まれました。農家にとっては大きな励みになります。さらに有機栽培や減農薬栽培への関心も高まりました。地域の中で循環が生まれ始めます。
地元の人ほど気づかない魅力
――地域の人たちは、自分たちの魅力に気づいていないことも多いのでしょうか。
浅原 例えば信濃町のトウモロコシは本当においしいのです。でも地元の人にとっては当たり前。だから外へ出そうとしない。そこで私たちは企業とのネットワークを使いました。提携している企業の社員の皆さんに販売しました。すると、毎年楽しみにしてくださる方が増えていきます。農家も企業の人も喜びます。信濃町にまだ来たことがない人も信濃町を知るきっかけになる。今でいう関係人口づくりです。私たちは地域に眠っている価値を少しずつ掘り起こしたいと思っています。
どの地域も30万人の市場を狙う必要はない
――富裕層ウェルネスツーリズムへの期待を耳にしますが
浅原 実はそこに少し違和感があります。よく「富裕層を呼びましょう」と言われます。海外市場は大きいからそこを狙いましょう、と。でも私は逆だと思っています。 例えば人口700人の村が、30万人の市場を相手にする必要があるでしょうか。2万人でもいいかもしれないし、4,000人でもいいかもしれない。大事なのは、その地域が受け入れられる規模だと思います。マーケティングの世界では大きな市場を狙った方がいいと言われます。でもみんなが同じ市場を狙えば競争になるだけ。それよりも、自分たちに合ったお客様を選んだ方がいい。企業研修でもいい。女性向けリトリートでもいい。ストレスケアでもいい。どんな人たちに、どんな価値を提供するのか。そこを考える方が大切だと思います。
順位ではなく、誰に届けるか
――海外のトレンドは、最適化へ進んでいます。一方で自然回帰の流れもある。その先にあるのは日本がもともと持っているものでは。
浅原 そう思います。だから日本は無理に真似をする必要はない。むしろ日本が持っている価値を見直した方がいい。ウェルネスという言葉に振り回される必要はありません。自分たちの地域にある価値を見つめ直すことの方が重要だと思います。 蕎麦、米、牛肉。みんな自分たちの土地のものが日本一だと言います。私は全国で何百回も聞いています。みんなそう言う。確かに各々美味しい。でも大事なのは順位ではありません。どんな場面で、誰に、どう提供するかなのです。例えば今、長野県の小海町でホテルを運営しています。そこのシェフは牛肉より、鹿肉や猪肉を得意としています。最初は本当にお客様に受け入れられるのかなと不安もありましたが、実際には環境意識の高いお客様にとても支持されています。地域の自然や文化と結びつくことで絶妙な価値を生む。それこそが大事だと思っています

expert浅原 武志(あさはら・たけし)
株式会社さとゆめ取締役COO。金沢工業大学卒業後、大手電子機器メーカーを経て信濃町役場へ入職。C.W.ニコル氏が提唱した「健康」と「環境」を軸とする「癒しの森事業」を担当し、全国に先駆けて森林セラピーを導入。40社以上の都市部企業と信濃町との連携を実現。信濃町役場を退職後は、観光・ウェルネスを軸に全国各地の地域活性化に取り組んでいる。
【株式会社さとゆめ 会社概要】 さとゆめは、「Local Business Incubator 〜人を起点として、地域に事業を生み出す会社〜」をコーポレートアイデンティティとする、地方創生に特化した伴走型の事業プロデュース会社。全国約50のエリアで、計画策定から事業の立上げ・運営まで、地域に伴走する。JR東日本との協業による「沿線まるごとホテル」(東京都奥多摩町・青梅市)、“700 人の村がひとつのホテルに。” をコンセプトとする「NIPPONIA小菅 源流の村」(山梨県小菅村)、地域と企業の協働による保養地づくり「癒しの森事業」(長野県信濃町)、町単独のアンテナショップ&地域商社事業「かほくらし」(山形県河北町)等、人を起点に様々な事業創出に取り組んでいる。(代表取締役CEO:嶋田 俊平、設立:2012年4月17日、事業内容:地方創生に特化した事業プロデュース、伴走型コンサルティング URL:https://satoyume.com/)
