地域はなぜ人を癒すのか②――ブランドをつくるのは建物ではなく、人
株式会社さとゆめ 取締役COO・長野支社長 浅原武志氏インタビュー
「私たちが目指しているのは軽井沢ではありません」。浅原武志氏はそう言い切る。歴史そのものがブランドである土地と、何もない地方の町とでは戦い方が違う。では、小さな地域は何を武器にすればいいのか。
森だけでは、水だけでは、足りない
――地域がウェルネスとして成立させるためには何が必要でしょう。
浅原 私たちは、どこの地域にも可能性があると思っています。ただ、森があるだけでは駄目です。水がきれいなだけでも駄目です。田んぼの風景が美しいだけでも駄目です。
やはりプログラムとして成立させるためには、それを支える人が必要です。セラピストがいること。そして滞在できる宿泊施設があること。その二つは欠かせません。地域資源そのものは全国どこにでもあります。問題は、それを体験として提供できるかどうかです。そこが一番難しいところだと思います。
ガイドは地域を語れる人であってほしい
――人の育成が一番難しいのかと思いますが。
浅原 地域性を伝えられることが重要だと思います。この土地にはどういう歴史があったのか。なぜこの森が残っているのか。どんな文化が育まれてきたのか。そういう話ができると、その場所への理解が深まります。同じ森を歩いても、何も知らずに歩くのと、背景を知って歩くのとでは体験の質が変わります。
私たちは地元の人をガイドとして育てることを重視してきました。地域を語れる人こそが財産です。森林浴の効果や自然との関わりについては研究も進んできましたが、地域の自然や歴史を丁寧に伝えることがもっとも大事だと考えています。
教え込むより、学び合う仕組み
――ガイド育成についてはなにかコツがありますか
浅原 全てを教え込もうとは思っていません。むしろ、自分たちで互いに学び合う仕組みを作ることを大切にしています。このお客様にはこうしたら喜ばれた。こういう対応は良くなかった。そうした経験はガイド同士が共有します。すると自然にリーダーが育ち、次の新しい人が育つ。その繰り返しです。地域づくりも会社経営も同じだと思います。誰か一人が教え続けるだけでは続きません。コミュニティが人を育てていくように思います。
ブランドを作っているのは皆さんです
――地域ブランドづくりについてはどのように考えていますか。
浅原 私たちが目指しているのは軽井沢ではありません。軽井沢は歴史そのものがブランドです。簡単には真似できません。では、地方の小さな地域は何をブランドにするのか。やはり人だと思います。ホテルでも建物でもなく、そこにいるセラピストやガイドです。だから、「ブランドを作っているのは皆さんです」と伝えています。そうすると意識が変わる。服装も学び方も変わる。そしてなによりサービスが変わる。ブランドとは人がつくるものだとつくづく思いますね。
企業と地域が出会う場をつくる
――信濃町は企業との連携も先進的だったそうですね。
浅原 当時、国内ではガイドにお金を払う文化がほとんどありませんでした。高額なガイド料を個人が払うのは難しかった。そこで企業に注目しました。従業員の健康づくりとして利用してもらう。実際に長野県内の企業の健康保険組合が補助制度を作ってくれました。それが大きな転機になりました。今で言う健康経営に近い考え方だったと思います。
森林セラピーや保養地づくりの延長線上として、企業と地域をどう結びつけるかの仕組みを作る必要がありました。林野庁もそうした方向性に注目し、現在の森林サービス産業という取り組みにつながっています。私自身も事務局として関わっていますが、企業と地域が出会う場をつくることは非常に重要だと感じています。

expert浅原 武志(あさはら・たけし)
株式会社さとゆめ取締役COO。金沢工業大学卒業後、大手電子機器メーカーを経て信濃町役場へ入職。C.W.ニコル氏が提唱した「健康」と「環境」を軸とする「癒しの森事業」を担当し、全国に先駆けて森林セラピーを導入。40社以上の都市部企業と信濃町との連携を実現。信濃町役場を退職後は、観光・ウェルネスを軸に全国各地の地域活性化に取り組んでいる。
【株式会社さとゆめ 会社概要】 さとゆめは、「Local Business Incubator 〜人を起点として、地域に事業を生み出す会社〜」をコーポレートアイデンティティとする、地方創生に特化した伴走型の事業プロデュース会社。全国約50のエリアで、計画策定から事業の立上げ・運営まで、地域に伴走する。JR東日本との協業による「沿線まるごとホテル」(東京都奥多摩町・青梅市)、“700 人の村がひとつのホテルに。” をコンセプトとする「NIPPONIA小菅 源流の村」(山梨県小菅村)、地域と企業の協働による保養地づくり「癒しの森事業」(長野県信濃町)、町単独のアンテナショップ&地域商社事業「かほくらし」(山形県河北町)等、人を起点に様々な事業創出に取り組んでいる。(代表取締役CEO:嶋田 俊平、設立:2012年4月17日、事業内容:地方創生に特化した事業プロデュース、伴走型コンサルティング URL:https://satoyume.com/)
