地域はなぜ人を癒すのか①/④  株式会社さとゆめ 取締役COO・長野支社長 浅原武志氏インタビュー

地域はなぜ人を癒すのか①~④

地域はなぜ人を癒すのか①――温泉のない町が見出した「保養地」の力
株式会社さとゆめ 取締役COO・長野支社長 浅原武志氏インタビュー

ここ数年、「ウェルネスツーリズム」という言葉を耳にする機会が増えた。心身の健康や幸福感を高める旅として、世界的な市場拡大が続いている。日本でも各地でさまざまな取り組みが始まり、温泉や森林、食や文化体験などの地域資源を活用した新たな観光や地域づくりの可能性が模索されている。
今回、話を伺った株式会社さとゆめは、全国約50か所で地域づくりに取り組んでいる。同社取締役COO・長野支社長の浅原武志氏は、国内で「ウェルネス」という言葉がほとんど使われていなかった20年前から、地域が持つ力の中に現代のウェルネスの根っこを見出していたように思う。

合併しない町が選んだ道
――浅原さんは長く地域づくりに関わってこられていますが、こうした取り組みの原点はどこにあるのでしょうか。

浅原 私はもともと長野県信濃町の役場職員でした。2002年に役場へ入りましたが、その頃は平成の大合併の真っ最中でした。信濃町も周辺自治体との合併が議論されていた時期です。住民アンケートなどを経て、最終的に信濃町は「合併しない」という選択をしました。そうなると、「このままで本当にまちづくりができるのだろうか」という議論になります。その頃、長野県知事は田中康夫さんでした。信濃町にはC・W・ニコルさんがお住まいで、お二人が森林の価値を活かした保養地づくりの構想を発信していました。長野県には軽井沢や上高地だけではなく、豊かな森林があります。その森林を活かした地域づくりができるのではないか。そうした考え方に共感した住民の皆さんが手を挙げて始まったのが「癒しの森事業」でした。その担当者になったのが私でした。

温泉がないからこそ生まれた発想

――癒しの森事業ではドイツの事例も参考にされたそうですね。

浅原 私たちがモデルにしたのはドイツの自然保養地でした。ドイツには保養地がいくつかのカテゴリーに分かれていて、その一つがクナイプ療法です。クナイプ療法発祥の地には当時温泉がなかった。だからこそ水療法や自然の恵みを生かしたプログラムが発展しました。実は信濃町にも温泉がありません。長野県は温泉地が多い県ですが、信濃町にはなかった。それならば、クナイプ療法のようなモデルが参考になるのではないかと考えたのです。森を歩く。地域の食を味わう。自然に触れる。そうした体験を通じて健康に向かう仕組みをつくろうと考えたのです。それ以来20年以上、愚直に取り組みを続けてきました。

20年以上続いてきた理由は何でしょうか
――行政の事業は方針が変わることも少なくありません。

浅原 理由はいくつかあります。一つはセラピスト育成です。信濃町ではガイドやセラピストの育成に力を入れてきました。特に主婦の方々が参加しやすかったということもあります。朝から活動して昼頃には終わるので、子育てとも両立しやすい。しかも仕事として収入にもなる。そのため地域の女性たちから大きな支持を得ました。もう一つは、町の条例の中に「癒しの森事業推進委員会」を位置づけたことです。続いていく仕組みをつくったわけです。
ただ、今は一つの転換期でもあります。20年続いたことで、当初40代だったセラピストが60代になっています。若い世代の担い手をどう育てるかは大きな課題です。当初を知り、強く推進する立場の人間が少なくなっているという現実もあります。
やはり人が重要です。私は人に興味があったので、人と人をつなぐことを意識してきました。地域づくりは、人をつなげていくことが大切です。振り返ると、そこが続いてきた理由だったように思います。



expert浅原 武志(あさはら・たけし)
株式会社さとゆめ取締役COO。金沢工業大学卒業後、大手電子機器メーカーを経て信濃町役場へ入職。C.W.ニコル氏が提唱した「健康」と「環境」を軸とする「癒しの森事業」を担当し、全国に先駆けて森林セラピーを導入。40社以上の都市部企業と信濃町との連携を実現。信濃町役場を退職後は、観光・ウェルネスを軸に全国各地の地域活性化に取り組んでいる。

 

【株式会社さとゆめ 会社概要】 さとゆめは、「Local Business Incubator 〜人を起点として、地域に事業を生み出す会社〜」をコーポレートアイデンティティとする、地方創生に特化した伴走型の事業プロデュース会社。全国約50のエリアで、計画策定から事業の立上げ・運営まで、地域に伴走する。JR東日本との協業による「沿線まるごとホテル」(東京都奥多摩町・青梅市)、“700 人の村がひとつのホテルに。” をコンセプトとする「NIPPONIA小菅 源流の村」(山梨県小菅村)、地域と企業の協働による保養地づくり「癒しの森事業」(長野県信濃町)、町単独のアンテナショップ&地域商社事業「かほくらし」(山形県河北町)等、人を起点に様々な事業創出に取り組んでいる。(代表取締役CEO:嶋田 俊平、設立:2012417日、事業内容:地方創生に特化した事業プロデュース、伴走型コンサルティング URLhttps://satoyume.com/