次の5年間で国内ウェルネス産業が変わる

国内ウェルネス産業の次の5年間を考える
ウェルネス産業の6つの構造変化
― 「健康最適化」と「暮らしの質」 ― 
Longevity(長寿)、バイオハック、データヘルス、個別最適化。身体をより長く、より強く、より効率的に保つための技術は、世界のウェルネス産業において大きく進化してきました。実際、グローバル・ウェルネス・インスティテュート(GWI)によれば、ウェルネス産業は拡大を続けており、その中でもパーソナライズドヘルスやメンタルウェルネス領域は成長が顕著です。
一方、日本国内でもウェルネスを取り巻く環境は変化し、高齢化、地域社会の変化、働き方の多様化などを背景に、健康を「医療」の周辺や「暮らし」の中で捉え直す動きが広がっています。
こうした潮流を踏まえると、今後のウェルネス産業は、健康最適化の進展を前提としながら、その先にある「暮らしの質」をどう高めるかという問いを中心に再編されていく段階に入っていると考えられます。本稿では、生活者の変化と産業構造の変化という2つの軸から、その動きを6つの潮流として整理をします。


【生活者側の変化】暮らしの中に広がるウェルネス

① 能動的ウェルネスライフの本格化
― 医療任せの健康から、自分で整える健康へ ―
これまで一部の富裕層や健康意識の高い層に限られていたウェルネス実践が、一般生活者の日常へと広がり始めている。医療や専門家に「任せる健康」から、自らの状態を理解し、日々の暮らしの中で整えていく健康へ。ウェアラブル機器やデータ活用の進展により、自己の状態を可視化しながら行動を選択するスタイルが一般化しつつある。今後は、自己理解を基盤とした能動的なライフスタイルがさらに定着していくと考えられる。
② 空間のウェルネス化
― ウェルネスは「場所」で設計される時代へ ―
人を取り巻く環境要素を統合的に設計する「空間のウェルネス化」が進展している。住居、職場、宿泊施設、公共空間、さらには移動空間に至るまで、休養、集中、回復、コミュニケーションを支える場として再設計される動きが広がりつつある。ウェルネスは個人の努力だけでなく、空間設計の視点からも捉え直される段階に入っている。
③ ライフコース視点のウェルネス拡張
― 女性から、すべての人へ ―
女性のライフステージに寄り添うヘルスケア・ウェルネスサービスは、ホルモンや身体リズムと向き合う視点を重視しながら進化してきた。今後はその知見が女性にとどまらず、子ども、男性、シニアへと広がり、「身体の声を聴く」という考え方がライフコース全体へと拡張していく可能性がある。ウェルネスは人生の時間軸を通して設計される領域へと進みつつある。

【産業構造の変化】 新しいウェルネス産業の領域
④ 伝統をテクノロジーで現代に活かす
― 養生・伝統知の再編集 ―
漢方、養生、精神文化などの伝統知が、AIや科学的手法によって可視化・整理される動きが進みつつある。これは単なる復古ではなく、現代生活に応用可能な知として再編集される過程である。こうした知の構造化は、新たな商品・サービス開発や海外発信の基盤となりつつある。
⑤ 医療周辺に広がるウェルネス領域
― 暮らしを支える新たなテーマとして ―
医療とウェルネスは制度や役割の面で区別される領域であるが、近年、予防、回復、生活支援といった治療だけでは完結しない周辺領域の重要性が高まっている。運動、栄養、睡眠、温泉、森林環境などの活用は、医療の代替ではなく、生活者の暮らしの質を支える取り組みとして再評価されている。企業や自治体による導入も進みつつあり、新たな市場領域を形成し始めている。
⑥ 自然回帰と地域の「暮らしのリズム」に入る体験
― Jウェルネスツーリズムの深化 ―
里山、海、山、川に残る日本の暮らしや人との関わりの中で、自然・四季・人・身体のリズムに身を委ねる体験への関心が高まっている。温泉地での新・湯治、森林浴、季節の食や発酵、「間」のある時間などは、五感を通して整う体験として再評価されている。これらは観光商品にとどまらず、高付加価値型のウェルネス体験として市場形成が進む可能性がある。


ウェルネスは「人間性回復」の時代へ

ここでいう人間性とは、身体・自然・他者との関係性の中で、自らの状態を感じ取り、選択できる力と捉えることができます。これからのウェルネスは、健康最適化の進展を前提としながら、「人間性・自然性・社会性」を回復し、暮らしの質を高める方向へと重心を移していく段階に入っている。いわば“ポストウェルネス”です。数値や効率だけでは測れない「暮らしの質」をどう設計するか。それが次の5年間の大きな問いとなるでしょう。
日本には、温泉、発酵、養生、季節の暮らしなど、生活の中に組み込まれたウェルネス文化が存在しています。これらは単なる文化資源ではなく、すでに日常の中で実装されている点において、他国に比べて展開可能性の高い資源と言えます。世界がポストウェルネスへと関心を移す中で、日本のウェルネスは、それらをいかに再編集し、次の産業として提示できるかが問われているように思います。



expert江渕 敦(えぶち・あつし)
J-wellness media代表・編集長/一般社団法人Jウエルネス振興会(j-wellness)の代表理事としてJウエルネス研究セミナー主宰している。長年変わらぬ立ち位置で、国内外のウエルネスや、ヘルスケア、ビューティ領域を取材し、発信を続けている。国内外の会議、展示会、自治体、大学等での講演多数。