ウェルネス×鉄道を考える ~ 銚子電鉄・西上逸揮社長に聞く、地域と異業種をつなぐ鉄道の可能性

ウェルネス×鉄道を考える
鉄道を残すことは、地域の暮らしを残すこと

写真:銚子電鉄の列車

銚子電鉄・西上逸揮社長に聞く、地域と異業種をつなぐ鉄道の可能性

ぬれ煎餅、まずい棒、自虐的なネーミング、映画、プロレス、異業種とのコラボレーション。銚子電気鉄道は、一般的な鉄道会社の枠を超えたユニークな取り組みで知られてきた。しかし、その目的は単なる話題づくりではない。人口減少が進む地域で、住民の生活を支える鉄道を残すことにある。
2026年6月30日、同社の代表取締役社長に就任した西上逸揮氏に、銚子電鉄の生き残り戦略、地域との連携、働く人の誇り、異業種との協業について聞いた。インタビューの後半では、対話を通じて見えてきた「鉄道×ウェルネス」の可能性を、J-Wellness Mediaの視点から考える。

銚子電気鉄道㈱ 代表取締役社長・西上逸揮氏 /  写真提供 産経新聞社

 

「真剣にふざける」のは、鉄道を残すため

――銚子電鉄に本格的に関わったのは、地域おこし協力隊がきっかけだと
西上氏 はい。2022年に地域おこし協力隊の銚子電鉄担当として現地に入りました。それ以前に、当時社長だった竹本勝紀氏(現会長)とあるセミナーで知り合っていたんです。
――外から見ていた銚子電鉄と、実際に中へ入ってからでは、印象は変わりましたか。
西上氏 まったく変わりました。外から見ていたころは、自虐的な商品名や奇抜な企画を見て、「かなり攻めた会社だな」と思っていました。でも、中へ入ると、ただ面白いことをやっているのではないことが分かりました。すべてが鉄道を残すという目的につながっているんです。
一言で表せば、「真剣にふざけている」。存在を知ってもらえなければ、乗ってもらうことも、商品を買ってもらうこともできません。まず注目してもらい、共感や応援につなげる。そのための企画であり、商品なんです。
――ふざけているように見えて、実は非常に論理的なのですね。
西上氏 そうですね。目的は一貫して鉄道を残すことです。竹本会長が掲げてきた「日本一のエンタメ鉄道」という方向性は、これからも大切にしたいと思っています。

地元の鉄道を残すため、外から人を呼ぶ

――地元の鉄道を残すために、地域外の人に来てもらう。一見すると逆のようにも聞こえます。
西上氏 そうなんです。取材時の集計では、鉄道収入のうち、地域住民の通勤・通学定期による収入は約1割で、残る約9割は定期外収入です。土日や夏休み、ゴールデンウイーク、初日の出客が訪れる元日は利用が増えますが、平日の日中は少ない。人口減少が続くなか、地元の利用だけを大きく伸ばすことは難しいと考えています。
最終的には、地元のために残す鉄道です。しかし、そのためには逆説的ですが、外の人に乗ってもらい、応援してもらわなければなりません。
――銚子電鉄を目的に来た人を、沿線や銚子全体へつなげたいということですね。
西上氏 はい。電車に乗って終わりではなく、沿線で食事をし、商品を買い、できれば宿泊もしてもらう。来訪による消費を地域全体へ広げることが大切です。
乗車券が紙券中心なので、来訪者がどこから来ているかを十分にデータ化できていませんが、体感では東京を中心とした関東圏からの日帰り客が多いです。何度も訪れたり、商品を買って応援したりしてくれる人を増やしたいですね。
(鉄道を守ることは、移動手段を守るだけではない。住民が地域で暮らし続けるための選択肢を守り、地域外の人との接点をつくることでもある。)

鉄道の発信力を地域へ還元する

――銚子電鉄には、交通機関だけでなく、地域の情報を外へ届けるメディアのような力もありますね。
西上氏 そこは大切にしています。銚子商業高校が考案した千葉県産ピーナツを使ったアイスの車内販売、地元農家との商品開発、銚子ビールと組んだ貸切列車などに取り組んできました。
銚子電鉄だけが発展するのでは意味がありません。銚子市全体が発展することが重要です。地域の商品や事業者が銚子電鉄と組めば、新しい商品や体験が生まれる。それを私たちの発信力で地域外へ届けたいと思っています。
――地域の事業者から見れば、銚子電鉄と組むことで、商品に物語と発信力が加わる。
西上氏 そうだと思います。銚子電鉄自体を目的に来てくださる方も多いので、その力を地域に還元したいんです。
(同社の年間売上は取材時の説明で約6億円。そのうち鉄道事業が約1億円、ぬれ煎餅やまずい棒などの食品事業が約5億円を占めるという。乗車券収入だけでは鉄道を維持できないからこそ、物販、ネーミングライツ、企業との協業が存続を支えている。)

若い世代には、新しい入口を

――今後、特に接点を広げたい層はありますか。
西上氏 これまでのファンには40~60代の男性が多い一方、約20年前のぬれ煎餅ブームを知らない20~30代には、別の入口が必要です。これからは、YouTube、X、Instagramなども使いながら、若い世代との接点を増やしたいですね。
――ドムドムハンバーガーとの企画も、従来の鉄道ファンとは違う人に届きそうです。
西上氏 あの企画は、危機を乗り越えてきた企業同士として相性があると感じ、こちらから働きかけました。鉄道と直接関係がないように見える企業やコンテンツでも、組み合わせることで新しい入口が生まれます。
企画を持ち込んでいただくことにも開かれています。「鉄道会社だから、これはできない」と最初から決めるのではなく、まず一緒に考えたいですね。

働く人のアイデアを、実際に世に出す

――新社長として、社内では何を変えていきたいですか。
西上氏 インナーブランディングを重視しています。社員が「銚子電鉄で働いてよかった」「運転士をしていてよかった」と思える会社にしたい。社員から出た企画は、できる限り否定せず、小さくても実際に世に出すことを大切にしようと考えています。
――提案したものが形になると、仕事への向き合い方も変わりますね。
西上氏 自分のアイデアが商品や発信として形になれば、会社への愛着や仕事への誇りにつながります。もちろん、全部が成功するわけではありません。でも、失敗も含めて試し、次へ進める会社にしたいと思っています。
利用者だけでなく、働く人が誇りや生きがいを持てることも、地域の持続性に欠かせない。西上氏の言葉からは、地域交通の経営と、働く人のウェルビーイングが切り離せないことが伝わってきた。

「ぜひ、一緒に面白いことを」

――銚子電鉄を、異業種が新しい取り組みを試せる場にしたいというお話もありました。
西上氏 はい。鉄道を残すためには、あえて鉄道ではないこともしなければなりません。銚子電鉄を、さまざまな企業と新しい取り組みを試せるフィールドにしたいと思っています。
ここで試したことが成功したら、ほかのローカル鉄道にも広げていきたい。私たちだけの成功で終わるのではなく、地域鉄道の一つのモデルになればいいですね。
――異業種の企業へ呼びかけるとしたら、どのように伝えますか。
西上氏 「ぜひ、面白いことを一緒にやりましょう」です。銚子電鉄には列車や駅、沿線の自然があり、小さな会社だからこその意思決定の速さもあります。最初から完成された企画でなくても、一緒に形にしていけると思っています。
――銚子という地域そのものにも、まだ生かし切れていない魅力がありそうです。
西上氏 海、朝日と夕日、魚、温泉、レトロな車両や駅舎、緑のトンネルがあります。東京から2時間弱なので、大掛かりな旅行でなくても来ることができます。
私自身、銚子で暮らしてみて、都会とは違う時間の流れを感じました。人と立ち話をすると、それが思った以上に長かったりする。でも、そういう人との距離の近さも含めて、少し現実から離れられる場所になってほしいと思っています。

________________________________________

西上社長のインタビューから考えた「鉄道×ウェルネス」の姿
ここからは、西上社長へのインタビューを通じて私が考えた「鉄道×ウェルネス」の可能性を記したい。銚子電鉄が、すでにウェルネス事業を展開しているという意味ではない。鉄道と地域の関係をウェルネスの視点から捉え直すと、新しい役割が見えてくるのではないかという、J-Wellness Mediaからの仮説である。
ウェルネスというと、温泉、スパ、運動、食、睡眠、自然体験などに目が向きやすい。しかし、その場所へ行けること、人と会えること、地域や社会とのつながりを保てることも、健やかに暮らすための条件である。地域住民にとって鉄道は、通学、通勤、通院、買い物だけでなく、外出して人と交わる機会を支える。鉄道は、地域のウェルビーイングを支える社会基盤と捉えることができる。
来訪者にとっては、車窓から風景を眺め、列車の揺れや音を感じ、その土地の日常に触れる時間そのものが旅の体験になる。銚子電鉄の古い車両や駅舎、緑のトンネルを、海、光、温泉、魚、人との交流へつなげれば、「日常から少し離れ、自分を整える旅」をつくれるのではないか。
さらに、駅と沿線を軸に、食、自然、温浴、運動、文化、宿泊を一つの流れとして結ぶことができる。車両、駅、売店、乗客との接点、情報発信力を持つ鉄道は、食、運動、睡眠、温浴、医療、介護、美容、観光などの企業にとっても、商品やプログラムを地域のなかで試す共創の場になり得る。
大切なのは、「ウェルネス列車」という単発企画をつくることだけではない。地域住民の暮らし、働く人の誇り、来訪者の体験、地域企業の事業を鉄道でつなぎ、地域全体に価値が循環する仕組みをつくることである。
鉄道を残すことは、人が移動し、出会い、地域と関わる機会を残すことでもある。J-Wellness Mediaでは今後も、鉄道と温泉、食、自然、宿泊、地域文化を結ぶ取り組みを取材し、「鉄道×ウェルネス」の可能性を探っていきたい。

取材・文/江渕 敦(J-Wellness Media)
取材協力・写真提供/銚子電気鉄道株式会社
西上社長の写真提供/産経新聞社