米国フードサービス業界に広がる“プロテイン熱”

Heath&Beauty 事情レポート(2026年5月)
Protein Frenzy Sweeps Across U.S. Foodservice Industry

(米国フードサービス業界に広がる“プロテイン熱”)
  
付加価値キーワードとなった『High Protein』 
 米国の食品小売業や外食産業では、現在「High Protein(ハイプロテイン=高タンパク)」というキーワードが、あらゆる売場やメニューで前面に打ち出されるようになっています。従来、タンパク質はアスリートやフィットネス層向けの関心領域と見られていました。しかし現在では一般消費者にも広く浸透し、「より多くのタンパク質を摂取したい」というニーズが市場全体を動かすまでに拡大しています。この動きは外食産業にも大きな影響を与えており、メニュー設計や商品開発、さらには価格戦略にまで変化をもたらしています。その象徴的な例が、外食チェーンやグロサリー店舗における“見せ方”の変化です。たとえば、ミレニアル世代やZ世代から高い支持を集める Chipotle (チポトレ)や CAVA (カバ)などのファストカジュアルチェーンでは、顧客は料理名ではなく、「タンパク質量」や「栄養バランス」を軸にメニューを選ぶ傾向が強まっています。タンパク源を自分で組み合わせるスタイルは、単なるカスタマイズではなく、“食事の機能化”を象徴していると言えるでしょう。
 また、McDonald’s (マクドナルド)をはじめとする大手ファストフードチェーンでも、高タンパクメニューを積極的に訴求する動きが一般化しつつあります。プロテイン強化メニューや、タンパク質量を分かりやすく表示した商品が増え、「高タンパク」が新たな付加価値として機能し始めています。
 ここまでタンパク質が重視されるようになった背景には、複数の要因があります。中でも大きいのがライフスタイルの変化です。近年、米国ではGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)系薬剤の普及が急速に進み、単に「食欲を我慢する」のではなく、食欲そのものが抑制されるケースが増えています。一方で、これらの薬剤には筋肉量減少のリスクも指摘されており、少ない食事量でも効率的にタンパク質を摂取する必要性が強く意識されるようになりました。その結果、食品メーカーや外食企業は高タンパク商品の開発を加速させており、市場全体が「少量高栄養」という方向へシフトしています。「食べる量は減らしたいが、必要な栄養はしっかり確保したい」というニーズが高まる中で、少量でも効率よく摂取できるタンパク質への注目が一段と強まっているのです。
 さらに、この背景にはフィットネス文化の浸透もあります。米国では「痩せること」よりも「体を作ること」が健康意識の中心にあり、筋肉維持や代謝向上を目的とした食生活が一般化しています。そのためタンパク質は単なる栄養素ではなく、「パフォーマンス」や「自己管理」を象徴する存在として捉えられているのです。

“プロテイン食を選べる”売り場が利益拡大につながる
「High Protein」トレンドは、実際の売場づくりにも大きな変化をもたらしています。従来、レジ周辺のフロントエンドにはGrab & Go(即食)商品やスナック、キャンディー類が並ぶのが一般的でした。しかし近年では、プロテイン飲料や高タンパクスナックが目立つようになっており、Albertsons Companies 傘下の Safeway では、店舗入口正面でシリアルを含む高タンパク商品を集中的に展開しています。
 注目すべきは、タンパク質訴求の対象が肉類やプロテインバーだけでなく、コーヒー、アイスクリーム、スナックなど幅広いカテゴリーへ拡大している点です。これは、消費者が「何を食べるか」だけでなく、「どのような機能を得られるか」で商品を選ぶ時代へ移行していることを示しています。米国ではこうした現象を「Protein Frenzy(プロテイン・フレンジー=タンパク質狂騒)」と呼び、単なる栄養トレンドではなく、食品・外食市場全体を変える構造的変化として捉えています。
 この傾向はスタジアムフードにも及んでいます。NFLなどのスポーツ会場では、従来のホットドッグやナチョス中心のメニューに加え、グリルチキン、ブリスケット、プロテインボウルなど、高タンパク・低糖質メニューが増加しています。さらに、タンパク質量をメニュー上で表示するケースも増えており、スタジアムフードも“健康を意識した外食”へ進化しています。また、高タンパクメニューはプレミアム価格を設定しやすく、客単価向上にもつながります。こうした流れの中で、プロテインは単なる健康キーワードではなく、食品・外食業界における付加価値戦略や売上拡大を支える重要なマーケティングワードとなっているのです。

JWM視点
米国で広がる「High Protein」ブームは、単なる栄養トレンドではなく、食の選択基準がさらに「機能」「効率」「自己管理」へ加速しているようにも感じる。米国市場はやはりすごい。特に注目したいのは、プロテインがアスリート向けの特殊な栄養素から、日常の食事設計に組み込まれる“生活者のウェルネス言語”になっている点。GLP-1薬の普及、筋肉量維持への関心、少量高栄養ニーズ、フィットネス文化の定着が重なり、食品・外食産業は「満腹を提供する産業」から「身体づくりを支援する産業」へと役割を広げている。
日本でも高タンパク商品はすでに一般化し、シニアのフレイル予防、女性の健康課題、働く人のコンディショニング、美容、睡眠、リカバリーなど、生活課題と結びついてきたが、今後また次のステージに向かうということだろう。JWMとしては、この動きを「プロテイン市場の拡大」としてだけでなく、食がウェルネス産業の入口になる変化として捉えたい。日本の強みである発酵食品、魚、大豆、出汁、和食、養生の知恵と組み合わせれば、米国型と違う日本型の“整えるプロテイン”という可能性も見えてくる。高タンパクは、これからの食品・外食産業において、健康訴求ではなく、生活価値を再設計するキーワードになり得る。



expert五十嵐 ゆう子(いがらし・ゆうこ)
米国健康・美容業界のコンサルタント/リサーチャー。美容・健康産業に関する通訳・コーディネーション業務、流通リサーチを担当。美容・健康業界紙「DIET&BEAUTY」などで長年米国トレンド事情のコラムを執筆。グロサリー業、小売流通コンサルティング、健康食品関連リサーチや講義講師等も担当している。