健康ソリューションと向き合う米国~Natural Product Expo West

Heath &Beauty 事情レポート②   (2026年4月)
      健康ソリューションと向き合う米国~Natural Product Expo West
オーガニック・ナチュラル、そして健康食品見本市Natural Products Expo

 2026年3月3日から6日まで、カリフォルニア州アナハイムのコンベンションセンターにて、Natural Products Expo West(ナチュラル・プロダクト・エキスポ)2026が開催され、本年度も参加してまいりました。今年で45周年を迎えた本イベントは、ナチュラル・オーガニック・健康食品業界における世界最大級の展示会であり、来場者数は約8万人規模、出展社数は前年の約2,700社から拡大し、約3,300社と発表されました。会場全体の熱量も非常に高く、スタートアップから大手ブランドまで幅広いプレイヤーが集結し、米国における健康産業市場の成長意欲の高さを改めて実感する展示会でした。
 今年の会場でまず印象的だったのは、機能性食品の進化です。血糖値や食欲管理を意識したGLP-1(ジーエルピーワン:食欲を抑え、血糖値を下げる腸ホルモン)関連の訴求をはじめ、腸内環境、免疫、代謝、美容、睡眠などを横断する「機能性ソリューション型」の商品が数多く見られました。特に、単一機能ではなく複数の健康課題に同時にアプローチする“マルチベネフィット設計”が目立ち、消費者の健康ニーズがより具体的かつ複雑化していることがうかがえます。従来の「ナチュラル」や「ヘルシー」といった感覚的な訴求から、成分・機能・効果を明確に提示する、より実用的なアプローチへと進化している印象です。
 同時に存在感を増していたのが、高タンパク・高栄養の商品群です。高タンパクスナックやプロテイン入り飲料、豆や代替穀物を使用した製品などが幅広く登場し、ここ数年のplant-based(プラントベースド:植物由来原料中心の食品)志向から、「栄養密度重視」へと軸足が移りつつあることが感じられました。背景には、GLP-1の普及による「食事量の減少」と、それに伴う「少量でいかに栄養を摂るか」という新しい食の考え方の浸透があると考えられます。また、添加物排除を訴求したラベルやシンプルな加工は、もはや差別化要素ではなく標準となり、クリーンラベルの次のステージとして「原料の質」や「調達ストーリー」に焦点が移っている点も印象的でした。
 サステナビリティの分野では、regenerative organic(リジェネレイティブ・オーガニック:土壌・生態系・労働環境までを回復させる農業)やフェアトレードの取り組みがさらに深化し、単なる環境配慮を超えて、生産者や地域との関係性を含めたブランドストーリーが重要な競争要素となっています。加えて、パッケージ領域ではプラスチック削減やリフィル対応、紙素材への転換なども進んでおり、「環境配慮は前提条件」という位置づけに変化していることが明確でした。
 また、原料メーカーによる小売プライベートブランド向け提案の積極化も印象的で、小売主導の開発構造がより鮮明になっていると感じました。特に、機能性成分やフォーミュレーションをパッケージ化して提案する動きが増えており、小売側がスピーディに商品開発を行うための“ソリューション提供型BtoB”のビジネスモデルが拡大しています。これは、米国小売におけるプライベートブランド強化の流れとも一致しており、今後さらに加速する可能性があります。
 カテゴリー別では、飲料分野において腸内環境や集中力、睡眠などを訴求する機能性RTD(Ready to Drink:そのまま飲める飲料)が急増し、エナジードリンクの概念が再定義されつつあります。従来の“覚醒系”から、“整える・回復する”方向へのシフトが見られ、日常的に飲用されるウェルネスドリンクとしての位置づけが強まっています。プロテイン入りウォーターなど、水カテゴリーの進化も注目されました。スナックでは、高タンパク・発酵・低GIを軸とした商品が増加し、間食が“嗜好”から“機能補給”へと役割を変えつつあります。さらにサプリメントは、粉末やカプセルからグミや飲料、バーといった食品形態へのシフトが進み、消費者にとっての取り入れやすさを重視した「食品化」の流れが一層強まっています。
 総じて今年のExpo Westは、機能性の高度化、栄養密度志向、サステナビリティの標準化、小売主導の開発構造という複数の潮流が同時に進行し、ナチュラル市場が「ライフスタイル提案型」から「健康ソリューション産業」へと移行していることを実感する展示会でした。今後は、単なる商品開発力だけでなく、科学的根拠、サプライチェーンの透明性、そしてブランドとしての社会的意義をどのように統合していくかが、企業の競争力を左右する重要な要素になると考えられます。
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JWM視点
本レポートから見えてくるのは、米国においてウェルネスが「機能としての解決手段」として高度に進化している姿である。血糖、腸内環境、睡眠、代謝といった具体的課題に対し、科学的根拠とプロダクトを組み合わせて応答する「ソリューション産業」としての成熟が進んでいる。一方で、こうした機能の高度化が進むほど、「なぜ整えるのか」「どのように生きるのか」といった意味の領域が問い直される段階にも入りつつある。機能と意味、その両輪でウェルネスを捉える視点が、今後ますます重要になるだろう。



expert五十嵐 ゆう子(いがらし・ゆうこ)
米国健康・美容業界のコンサルタント/リサーチャー。美容・健康産業に関する通訳・コーディネーション業務、流通リサーチを担当。美容・健康業界紙「DIET&BEAUTY」などで長年米国トレンド事情のコラムを執筆。グロサリー業、小売流通コンサルティング、健康食品関連リサーチや講義講師等も担当している。