新・ウェルネスツーリズムの提案 奄美から箱根へ。「安・近・短」が拓く地域ウェルネスの新潮流

新・ウェルネスツーリズムの提案

奄美から箱根へ。「安・近・短」が拓く地域ウェルネスの新潮流

ウェルネスツーリズムというと、高級ウェルネスリゾートや長期滞在型リトリートを思い浮かべる人が多い。しかし、その常識が変わろうとしている。日帰りや一泊二日でも気軽に参加できる「安・近・短」のウェルネスツーリズム。その実証が、箱根を舞台に始まろうとしている。

奄美大島から始まった挑戦

この構想を進めているのは、奄美大島のウェルネスリゾートホテル「THE SCENE」(※)の支配人を務める傍ら、ウェルネス専門旅行会社「Wellness Trip」を運営する小林良輔氏 nobitel執行役員) である。奄美大島のTHE SCENEは、「何もしない贅沢」をコンセプトに、豊かな自然環境を生かしたリトリートプログラムを展開し、ウェルネスを目的とした滞在型ホテルとして知られている。その現場で国内外のウェルネスツーリズムを実践してきた経験から、小林氏は「高価格・長期滞在型」の市場は一定の需要があることを実感したという。一方で、「ウェルネスを一部の人だけの特別な体験にしてはいけない」という思いも強くなったという。現在、新たな挑戦として取り組んでいるのが、「安・近・短」のウェルネスツーリズムである。

  • THE SCENE」  https://hotelthescene.com/ 奄美大島最南端に位置するウェルネスリゾートホテル 運営母体㈱nobitel

 

世界では「日常で継続できる体験」への関心も高まる

近年、世界のウェルネスツーリズム市場は大きく拡大している。タイのチバソムやイタリアのパラッツォ・フィウッジ、スペインのSHAウェルネスクリニックなど、世界には滞在型ウェルネス施設が次々と誕生してきた。そこでは医療、運動、栄養、睡眠、メンタルケアなどを組み合わせたプログラムが提供され、数日から数週間かけて心身を整えることが一つのスタイルとなっている。一方で近年は、「非日常でリセットする旅」だけでなく、「日常生活に戻っても続けられるウェルネス」も注目されるようになってきた。短時間でも継続的に体験できること、生活圏から近い場所で実践できることが、新たな価値として注目され始めている。

「遠く・高く・長く」は証明された

ウェルネス専門旅行会社「Wellness Trip」を運営する小林氏は、奄美大島をはじめ、インドネシア、タイ、ハワイ、スリランカなどでリトリートツアーを企画してきた。「有名なインストラクターがいれば、遠くても、高くても人は集まることは証明できました」。 フォロワー数1万人を超えるヨガ講師やスポーツインストラクターによるツアーは、高い集客力を持つという。

次に目指すのは「安・近・短」

現在、挑戦しているのが、近場で、短時間で、手頃な価格で体験できるウェルネスツーリズムである。現在、箱根を舞台にウェルネスツーリズムの実証に取り組んでいる。年間約2,000万人規模の観光客が訪れる箱根はインバウンドで賑わう一方、「観光客数の多さだけでは持続可能な地域とは言えない」という課題意識もあるという。ウェルネスという新しい価値を地域ブランドとして育てることが、その挑戦の目的だ。

主役はホテルではなく「地域の人」

小林氏が描くモデルでは、宿泊施設だけが商品ではない。ヨガ講師、ランニングコーチ、トレイルガイド、サーフィン指導者など、地域で活動する人たち自身が旅の価値になる。現在は著名なインストラクターが集客を担っているが、最終的には地域で活動する無名の専門家にも仕事が生まれる仕組みを目指している。「地域には素晴らしい人材がいる。しかし、お客様につながる仕組みがない。」その言葉が印象に残った。

地域資源をつなぐ時代へ

構想の先には、ウェルネスに特化したオンラインプラットフォームがある。宿泊施設だけでなく、ガイド、インストラクター、アクティビティ事業者をネットワーク化し、利用者の目的に合わせてAIが最適な体験を提案する。ホテルを予約する時代から、「どんな体験をしたいか」で旅を選ぶ時代への転換である。

JWM視点   地域人材を活かすウェルネスツーリズム

これまでJ-Wellness Mediaでは、国内外のウェルネスビジネスの事例を取材、紹介してきた。共通して見えてきたのは、ウェルネスツーリズムの価値が「施設」から「地域」へ広がっていくことである。 豪華なスパやホテルだけではなく、その土地の自然、文化、食、人との交流まで含めて、地域全体をウェルネスの舞台として編集する発想が求められている。小林氏が提案する「安・近・短」のウェルネスツーリズムも、その流れの延長線上にある。

高級リゾートだけでは市場は広がらない。地域で活動するガイドやインストラクター、地域資源を結び付け、誰もが気軽に参加できる仕組みをつくることが、日本らしいウェルネスツーリズムの次のステージではないだろうか。「旅を売る」のではなく、「地域の暮らしや人の魅力を編集して届ける」。箱根で始まろうとしている挑戦は、一地域の取り組みにとどまらない。「遠く・高く・長く」から「安・近・短」へ。そして、「施設中心」から「地域中心」へ。日本のウェルネスツーリズムは、いま新たなステージへ歩み始めている。