若手実務者が語る温泉地の未来~「湯治文化」と地域経営をどう次世代につなぐか
NPO法人健康と温泉フォーラム 第128回月例研究会「温泉地の未来を創る『若手』の挑戦」が3月19日 都内で開催され、青森・岩手・北海道で温泉地経営や温泉文化の継承に取り組む若手実務者が登壇した。テーマは「持続可能な温泉地経営と地域価値の再構築」。温泉を単なる観光資源としてではなく、地域文化、暮らし、働き方、コミュニティの再生とどう結び付けていくのか。現場の最前線に立つ三方の発表からは、いま温泉地に求められている視点が浮かび上がった。

3人の若手実務者が語る「温泉地の未来」に学ぶ
冒頭、健康と温泉フォーラムの三友紀男会長は、年度末にあえて「未来を語る」会を開くことの意義に触れ、「先人の苦労に学びながら、若い実務者が進むべき道筋を見いだす場になればうれしい」と挨拶した。今回の会合には、対面・オンラインあわせて全国から関係者が参加。温泉文化の継承と地域経営のあり方を、多角的に考える場となった。
最初に登壇したのは、青森・酸ヶ湯温泉の高田新太郎氏。国民保養温泉地第1号の酸ヶ湯で、営業企画を担う一方、大学院で温泉文化や音風景の研究も進め、現場と学術の両面から温泉を見つめる。混浴文化をどう継承するかに向き合い、環境省の「10年後の混浴プロジェクト」への参画や、丑湯祭りに合わせ男女の湯あみ着キャンペーンを実施。混浴文化を多様な価値観の中で「入りやすい形」の再編集に取り組む。豪雪環境を活かし、イグルーづくり、雪の茶室、イグルーカフェ、極寒座禅会を展開。背景に、視覚中心の観光から、音や静けさ、身体感覚を含む体験へと価値を広げたい問題意識があった。部屋からテレビやテーブルを外した「の~ぷらん」の部屋づくり、寄港地ツアーで混浴文化・湯治文化を語る実践も、その延長線上にある。 現在」「健康鍋」や新たな「湯治」プランにも取り組む。
続いて登壇したのは、岩手・夏油温泉観光ホテルの再生に取り組むGETO Village株式会社共同代表の村岡葉子氏。村岡氏は、温泉地再生のコンセプトとして「多世代がゆるく、つながりに浸かる『社交の湯』」を掲げる。湯治場を単なる宿泊施設ではなく、シェアハウスのように人が交わり、役割を分かち合い、学びと交流が生まれる場として再定義しようとしている点が特徴だ。健康、コミュニティ、学びの3つを重ね合わせ、「Beingを整え、Doingを考える場」を構想。また、宿を起点に関係人口を育て、地域の他施設へも人材を循環させる構想や、将来的には「温泉宿人材マッチングサービス」へ発展させたいという展望も示した。温泉を守ることと、働く人の生き方を支えることを一体で考えている点が印象的だった。
3人目は、北海道で温泉文化の発信と現場支援を続ける髙野紀康氏。開拓ふくろふ乃湯の2代目湯守として日帰り温泉の運営を担った経験を持ち、現在は定山渓観光協会職員としても活動している。髙野氏は、日帰り温泉経営の厳しさ、低温泉・豪雪・短期営業といった条件下で温泉施設を維持する難しさを率直に語った。その一方で、回数券や月額利用、寄付、会員制を通じて、温泉が地域住民の日常生活に溶け込み、利用者と一緒に場を作っていく可能性を実感したという。髙野氏は、北海道の温泉を一つの大きな温泉郷として捉え直し、インバウンドに向けた温泉文化の発信や、北海道における温泉利用型健康増進施設の拡充を今後の目標として挙げた。温泉とは入浴だけではなく、地域の暮らしや歴史、人の営みそのものを内包するものだという視点が一貫していた。
土地の文化や自然、人を読み解き、現代の暮らしに再編集する
後半のディスカッションでは、「湯治文化の魅力とは何か」「それをインバウンドにどう伝えるか」といった問いが投げかけられた。登壇者から共通して語られたのは、温泉の本質は泉質や効能だけではなく、自然環境、土地の食、人との交流を含めた“温泉地”全体にあるという点だった。裸の付き合いが生む対話、多世代のゆるやかな関係、地域で受け継がれてきた暮らしの知恵。そうした要素が一体となって、温泉地ならではの癒しと回復を支えているという認識。。土地固有の文化や自然、人の関係性をどう読み解き、現代の暮らしや働き方に繋ぎ直すか。若手実務者たちの発表は、その再編集の試みそのものだった。
JWM視点)
温泉はいま「人が自分を取り戻す場」へと意味を広げつつある。湯治文化の再評価は、自然、食、静けさ、交流、学びを含む日本型ウェルネスの再発見であり、地域資源を未来へ手渡すための新しい産業編集の挑戦でもある。今回の議論は、温泉地の未来を守るだけでなく、日本のウェルネス文化の次の輪郭を示すものとなった。
