
2月25日、林野庁主催の「山村と企業をつなぐフォーラム」が都内(木材会館)で開催された。テーマは、「企業の人的資本経営に効く森のプログラム活用法」。
林野庁から岸功規氏(森林整備部森林利用課山村振興・緑化推進室長)が開会のあいさつの中で「近年、企業研修やアクティビティを通じて都市と山村を結ぶ動きが広がる中、林野庁では森林の多様な価値を活用し地域活性化や豊かな森林づくりにつなげる取り組みを『森業(もりぎょう)』として推進している。山村では人口減少や高齢化により森林の管理不足が課題となる一方、世論調査では8割以上が森林活動に関心を示している。企業側でも人的資本経営やウェルビーイング、気候変動対応への関心が高まり、森林由来のJ-クレジットの創出など森林との連携が拡大している」ことを述べた。同フォーラムでは基調講演や企業事例紹介、企業と森林サービス産業推進地域との交流会が行われ、企業と地域の新たな連携創出の機会となった。
「ウェルビーイング」と森の必然―前野隆司氏のメッセージ
基調講演で登壇した前野隆司氏(武蔵野大学ウェルビーイング学部長、慶應義塾大学名誉教授)は、まず、「ウェルビーイング」とは、1946年のWHO(世界保健機関)の健康は「身体的・精神的・社会的に良好な状態」、単に病気がないことではない、という定義に由来し、身体・心・社会の良い状態をつくる活動がウェルビーイングだと説明、単なる楽しさ(ハピネス)よりも広い概念であると整理した。
「視野が広い」「協調性がある」「チャレンジ精神がある」「やる気がある」「思いやりがある」といった人ほど幸福度が高い——心理学の研究が示す「幸せな人の条件」は、まさに組織が求める人材像とも重なる。 前野氏が投げかけたのは、さらに大きな視点だ。人類は長い時間、森とともに生きてきた。にもかかわらず、現代の働き方は分業が進み、仕事の意味が見えにくい。結果として、やらされ感や孤独が増し、社会は分断へ傾く。だからこそ、森に入ることは単なる気分転換ではなく、「人間の本来のOSを呼び戻す行為」になり得るという。自然とのつながり(ネイチャー・コネクテッドネス)が高い人ほど幸福度や個人の成長感が高いこと、自然体験は“快楽的な幸福(へドニア)”よりも“生きがいや利他性を伴う幸福(エウダイモニア)”と結びつきやすいことなど、研究知見も紹介された。
肩書を外し、“まんまの自分”で学ぶ―森和成氏が語る企業研修の実装
続く基調講演では、企業向け研修を多数受けの実績を持つ森和成氏(株式会社ライジング・フィールド代表取締役社長)が登壇。自然環境を活用した体験学習の全体像を解説した。取り組みは「自然環境×体験学習×観光×ビジネス」の4領域を掛け合わせ、軽井沢を拠点に展開する。自然では肩書きや役割が通用せず「まんまの自分」が引き出され、変化の起点になるという。体験から学び続ける力を「生きるOS」と位置づけ、アクション→振り返りの循環で“持ち運べる知恵(ポータブルナレッジ)”を育てる場づくりを進めている。
“森に行こう”でいい―地域の現場が提示した多様な入口
議論を経て、司会者が最後にまとめた言葉が印象的だった。「森に行こう、でいい」。理屈を積み上げる前に、まず行ってみる。行けば分かる。ウェルビーイング、組織開発、地域活性、ネイチャーポジティブ——入口は違っても、森は“体験の場”として人と組織を変える力を持つ。森業は、その変化を地域の利益と豊かな森づくりへつなげる社会実装の枠組みだ。
後半は全国の推進地域が登壇し、都心から日帰り可能な「東京都檜原村」、源流体験を軸にした「山梨県小菅村」、馬や発酵食を組み合わせた「長野県木曽町」、豪雪地帯の水源域を生かす「滋賀県高島市」、東洋医学×テクノロジーで養生を提案する「京都府南丹市」、そして林業を“体育会系”に体験させる「岡山県西粟倉村」などから、個性豊かなプログラムが紹介された。
まとめ
・森業は、森林の多様な価値を活用し、企業と山村をつなぐ政策・実装の枠組み
・自然体験は「気持ちよさ」だけでなく、利他性や視野の広さなど“深い幸福”と結びつきやすい
・企業研修では、役割を外し、体験→振り返りで“持ち帰れる知恵”に変える設計が鍵
・地域側は多様なプログラムを提示。結論はシンプルに「まず森へ行く」ことから
森は、誰にとっても“原点”になり得る。分断と不安が広がる時代だからこそ、森を介した連携が価値を持つ。森業が生む出会いと実践の積み重ねが、働く人のウェルビーイングと、地域の未来を同時に育てていく。
