日本文化から紡ぐ、シックスセンシズ 京都の新しいウェルネス
世阿弥の「まことの花」と女性のウェルネスを現代の体験へ
シックスセンシズ 京都は、女性のウェルネスをテーマにした3泊4日の「Yin Way Retreat-The Way of a Woman-」を2026年12月11日から開催する。また、8月からは日本の伝統文化や美意識に着想を得た、京都限定のフェイシャルトリートメント「HAKE KIYOME」と「OMOTE」の提供を開始した。今回、シックスセンシズ 京都のウェルネス ディレクター福田絢子氏に、これらのプログラムが生まれた背景と、同施設が考えるウェルネスについて話を聞いた。
シックスセンシズ初の自社主導リトリート
シックスセンシズはこれまで、世界各地のホテルやリゾートで数多くのリトリートを開催してきた。ただし、その多くは、外部の専門家が自身のプログラムを企画・実施し、シックスセンシズが持つウェルネスやスパの専門性、施設、サービスを掛け合わせる形で開催されていた。 今回の「Yin Way Retreat」は、シックスセンシズに所属する専門家が中心となって企画・運営する、ブランド初の自社主導型リトリートだという。「女性のウェルネスをブランドとして取り組もうという計画は、数年前からありました。当初は各施設でプログラムとして導入する構想でしたが、今回はリトリートという形で始めます。2026年に開催するのは、モルディブと京都の2施設です」と福田氏は説明する。
リトリートを進行するのは、シックスセンシズのウェルネス・プロジェクト・ディレクター、Hati Sema Malinova氏。医科学、機能性医学、マタニティウェルネスに20年以上携わり、中医学や道教、予防心理学などを組み合わせたホリスティックなアプローチを実践してきた。プログラムには、女性の健康やホルモンバランスを学ぶセミナー、気功、陰ヨガ、道教瞑想、サウンドヒーリング、ウェルネススクリーニング、スパトリートメントなどを組み込む。さらに、二十四節気に基づいた食事、金継ぎ、生け花など、京都で日本文化に触れる体験も用意する。妊娠や出産、家族計画、更年期など、女性の心身が変化するライフステージを見つめ、自分の身体への理解を深める時間として構成されている。 12月11日から開催する。
世阿弥の思想をフェイシャルへ
8月から提供している京都限定のフェイシャルトリートメント「HAKE KIYOME」と「OMOTE」は、日本発のウェルネススキンケアブランド「LAPIDEM(ラピデム)」との共同開発によって生まれた。開発のきっかけとなったのは、海外から訪れる宿泊客から寄せられた「なぜ日本のスキンケアを使用したフェイシャルがないのか」という声だった。
しかし、福田氏が目指したのは、日本の化粧品や道具を取り入れるだけのメニューではなかった。「フェイシャルでリラックスして、肌がきれいになって終わるだけでもよいと思います。ただ、その奥にしっかりしたコンセプトがあり、それに少しでも触れることで、肌だけではなく、考え方や心にも何かインスピレーションが残るものにしたいと考えました」。
石膏マスクを用いる「OMOTE」は、能の面と世阿弥の美意識から着想を得た。福田氏は世阿弥の著作を読み込むことから始め、コンセプトをつくり上げたという。その中心にあるのが、若さによる一時的な美しさを表す「時分の花」と、経験や修練を積み重ねることで身につく「まことの花」という考え方である。「年齢を重ねることは誰にでも起きます。そのなかで日々の修養や修練と向き合い、自分の『まことの花』を見つけていくことに意識を向けられるフェイシャルにしたいと思いました」。「OMOTE」は若さを取り戻すことを目指すのではない。和筆によるブラッシングや石膏マスク、日本で生まれた反射療法「足心道」などを通じて、その人が歩んできた時間を含む、本来の美しさを見つめる時間となる。

日常の道具に宿る「清め」
もう一つの「HAKE KIYOME」は、日本に古くからある「清め」をテーマにしたフェイシャル。施術には、手拭いや職人の手でつくられた和筆、 鮨職人が使うような刷毛など、日本の暮らしの中で使われてきた道具を取り入れた。肌を清潔に整えることと、不要なものを手放し、心身を落ち着かせる感覚を重ねている。海外の宿泊客に日本らしさを感じてもらうため、和の道具や演出を加えるサービスは少なくない。しかし福田氏は、表面的に日本的な要素を組み合わせるだけでは、本物を知る人にはその薄さが伝わってしまうと指摘する。日本の京都という土地で、日本人を中心とするチームが提供するからこそ、その背景にある文化や思想まで理解したうえで、一つの体験として組み立てる必要があったという。

医療とリラクゼーションの間にあるスパ
最近の世界のウェルネス産業界の長寿医療志向について、福田氏は、ホテルスパは医療や美容医療とは異なる価値を提供するものであり、同じ土俵で捉える必要はないと話す。 「医療など、異なるフィールドと競おうとしたり、意識しすぎたりすると、スパやエステティックは自分たちの強みを見失ってしまう恐れがあります。医療が必要な場合は、もちろんメディカルの領域を頼るべきです。一方で、スパにしかできないことも必ずあります」。
シックスセンシズ 京都では、興味深いことに、医療の分野で活躍されている方々が定期的に訪れ、ウェルネススクリーニングを受けるケースも少なくないという。結果をもとに鍼灸師などの専門家と対話し、日常の中で無理なく、そして“楽しく”続けられる方法を一緒に考える。数カ月後に再訪し、変化を確認することが、健康的な行動を続けるモチベーションにもなる。
ホテルスパには、施術だけでなく、温浴、サウナ、運動、食事、専門家との対話など、さまざまなアプローチがある。医療とリラクゼーションの間に位置しながら、ウェルネスを「頑張らなければならないもの」や「我慢するもの」ではなく、自分自身が心地よく、日々を気持ちよく過ごすためのものとして捉えるきっかけをつくる。「心地よいから、もう少し良くしてみたい」と思える。そんな自然な好循環を生み出せることも、ホテルスパならではの価値なのだ。
「Yin Way Retreat-The Way of a Woman-」 開催期間:2026年12月11日(金)~14日(月) 会場:シックスセンシズ 京都
問い合わせ:075-531-0700 公式ページ
京都限定フェイシャルトリートメント 提供開始:2026年8月1日
問い合わせ:シックスセンシズ スパ 京都 075-531-0712 オンライン予約
JWMの視点――「ウェルネス」という看板を越えて
今回の取り組みで注目したいのは、日本文化を装飾や物語として借りるのではなく、その背景にある思想を現代の体験へ置き換えようとしている点である。ウェルネスへの関心が高まる一方、その言葉を名称に加えただけの施設やサービスも増えている。福田氏は、「ウェルネスという言葉が浸透する前に、本来の意味を見失い始めている」と問題提起する。新しい建物や設備をつくるだけで、ウェルネスが生まれるわけではない。誰のための場所なのか、そこで何を感じ、日常へ何を持ち帰るのか。そして、その思想を理解して提供する人をどう育てるのか。そこまで考えて初めて、ウェルネスは持続的な体験になる。二十四節気、清め、能、修養、まことの花。日本人にとっても日常から遠くなりつつある文化や考え方を、海外発のホテルブランドが読み直し、現代のウェルネスとして形にしている。シックスセンシズ 京都の展開は、日本文化の価値を世界へどう伝えるかという試みであると同時に、私たち自身がその価値をどこまで理解し、現在の暮らしへ生かせているかを問いかけている。
取材・文:江渕 敦
取材日:2026年8月12日 本記事は、関係者への取材および発表資料を基に、J-Wellness Media編集部が編集・構成しました。
