世界のウェルネスは「サイエンス」と「メディカル」へ
GWSアドバイザリーボードメンバー・相馬順子(Yoriko Soma)氏が語る、日本の次の可能性
世界のウェルネス市場は、スパや癒やしを中心とした体験から、AI、データ、ロンジェビティ、再生医療など、サイエンスとメディカルを取り込む段階へ進みつつある。世界のウェルネス産業を牽引する国際会議Global Wellness Summit(GWS)のアドバイザリーボードメンバーで、Conceptasia Inc.代表を務める相馬順子氏に、世界市場の変化と日本企業の可能性について聞いた。
国内でも「ウェルネス」という言葉は広がったが、構想から持続可能な事業へ進まない例は少なくない。一方、相馬氏が関わる世界の市場は速いテンポで動いている。日本との間には、変化を捉え、事業へ移すスピードの差が生じているようだ。
癒やしからサイエンス・メディカルへ
相馬氏は、世界のウェルネス市場の発展を大きく三つの段階で捉える。初期は、癒やしや精神性、非日常の体験が中心だった。次に睡眠や体内時計などの科学的知見が加わり、心身の状態を測定し、改善につなげる取り組みが広がった。そして現在は、AI、データ、ロンジェビティ、再生医療など、本格的なサイエンスとメディカルへ重心が移りつつあるという。
ただし、従来のスパやヒーリングが不要になるわけではない。相馬氏によれば、富裕層を中心にスパへの需要は引き続き存在する。一方、利用者は施術を受けるだけでなく、自らの健康状態を把握し、必要な方法を選び、日常的に管理するようになっている。
この話からJWMが注目したのは、ウェルネス事業を単独のサービスで考えることの限界である。スパ、医療、テクノロジー、食、運動、睡眠などを、利用者の目的に沿って設計する力が問われている。
「ルールを作る側が強い」
サイエンスとメディカルへの変化は、日本にとって機会にもなり得る。日本には再生医療をはじめ、世界へ示すことのできる研究や技術の蓄積がある。
その一方で相馬氏は、優れた技術を持っているだけでは、国際市場を主導できないと指摘する。取材で特に印象に残ったのが、「ルールを作る側が強い」という言葉だった。
技術やサービスをどう定義し、安全性や有効性をどう評価するのか。こうした枠組みが市場の形を決める。この指摘を踏まえ、JWMでは、日本の研究者、医療関係者、企業も、国際的な基準づくりの初期段階から議論へ加わる必要があると考える。
かつて日本は「Jビューティ」の価値を十分に伝えられない間に、Kビューティの急成長を許した。これは筆者が美容産業を長く見てきたなかで感じる課題でもある。メディカル・ウェルネスでは同じことを繰り返してはならない。
日本を選ぶ理由を設計する
インバウンドについて相馬氏は、日本側が良いと考える温泉、自然、食、文化を並べるだけでは、海外の富裕層が日本を選ぶ理由にはならないとみる。世界の顧客は何を求め、何に時間と費用を払うのか。他国では得られない日本固有の価値は何かを見極める必要がある。相馬氏は、海外から繰り返し人を呼べる日本の資源の例として「雪」を挙げた。
また相馬氏は、施設を造ってから顧客を探すのではなく、対象、利用者数、価格、収益構造を先に検討し、その後に施設やサービスを組み立てる必要性を指摘する。
ここから見えてくるのは、「日本らしさ」を供給側の自己評価だけで決めてはいけないということだ。先端医療やメディカル・ウェルネスを訪日の目的に育てるには、日本の資源と海外顧客の課題を結び、選ばれる理由として設計する必要がある。
サービスからコミュニティへ
国内市場について相馬氏は、フィットネス、バイオハッキング、交流機能などを組み合わせた会員制の「ウェルネス・ソーシャルクラブ」にも可能性があると話す。価値観を共有する人とつながり、日常的に自分を整える場所である。
一方、施設が増えても、セラピストや専門人材が集まらなければ事業は成立しない。相馬氏は、海外の教育機関との連携や、ワーキングホリデー人材を受け入れる仕組みなど、人材を国境を越えて育成・確保する必要性にも言及した。
JWMが注目したいのは、人材、顧客、知識が継続的につながるコミュニティと国際ネットワーク自体が、今後の競争力になり得る点である。
JWMの視点――日本の価値を世界市場へ翻訳する
今回の取材で相馬氏が示したのは、サイエンスとメディカルへの市場の移行、ルール形成の重要性、顧客を起点とする事業設計、国境を越えた人材とネットワークの必要性だった。JWMが必要だと考えるのは、日本の研究、技術、温泉、自然、食、養生文化を、世界の需要に沿った価値へ翻訳することである。海外のモデルをそのまま輸入するのではなく、日本の資源を国際市場に伝わる事業へ再構成しなければならない。
サイエンスとメディカルへ進む世界のウェルネスに対し、日本は後から追随するのか。それとも、国際的なルールと市場をつくる側へ回るのか。いま、その分岐点に立っている。
取材・文/江渕 敦(J-Wellness Media)
➡相馬順子さんは第59回Jウエルネス研究セミナー11月24日の開催で講演を予定。「世界のウエルネス産業の最新動向」についてお話します。詳細は後日 公式HP https://j-wellness.jp/ にてお知らせします
