温泉・森林・スポーツを、生活者目線で結び直す
第56回Jウエルネス研究セミナー開催報告
一般社団法人Jウエルネス振興会は2026年8月25日、第56回Jウエルネス研究セミナー「骨太の方針2026から読み解くJウエルネス」を開催した。第1弾となる今回は、環境省、林野庁、スポーツ庁の担当者を迎え、温泉、森林、スポーツをめぐる政策動向と、ウェルビーイングを共通項とした地域づくりの可能性を考えた。本セミナーの目的は、骨太の方針そのものを解説することではない。国の政策を知り、日本にすでにあるウェルネス資源を、生活者の視点からどのように生かせるかを探ることにある。
登壇者
「温泉政策・自然資源と健康」
環境省 自然環境局 自然環境整備課 温泉地保護利用推進室 温泉保護係長 今別府達也氏
「森林空間活用・森業」
林野庁 森林整備部 森林利用課 森業振興室 森林空間利用専門官 藤代和成氏
「健康スポーツ政策」
スポーツ庁 健康スポーツ課 専門職 中山正剛氏
温泉地全体で心身を整える
環境省の今別府氏は、「国民保養温泉地」と「新・湯治」について説明した。
国民保養温泉地は、温泉法に基づき、保健休養に重要な役割を果たす温泉地を環境大臣が指定する制度である。全国の温泉地は、2025年3月末時点で2,839カ所。そのうち国民保養温泉地に指定されているのは79カ所で、全体の3%に満たない。
環境省が推進する「新・湯治」は、温泉に入ることだけを目的とするのではない。周辺の自然、歴史・文化、食などを生かした多様なプログラムを楽しみ、地域の人々と触れ合いながら、心身ともに元気になる、現代のライフスタイルに合った温泉地での過ごし方である。
鳴子温泉郷を例に、温泉、自然体験、現代湯治、鍼灸・マッサージなどを組み合わせた滞在型の取り組みも紹介された。
今後は、心身ともに元気になれるコンテンツ、温泉地全体を楽しめる環境、有限な温泉資源の保護、温泉文化の保存・継承、情報発信を一体的に進めることが重要になる。
環境省は2026年度から、「新・湯治」や温泉文化を国民保養温泉地計画へ反映させるため、専門家による助言などの伴走支援を開始する予定である。新規指定や指定区域の拡充を検討する温泉地への支援も進める方針が示された。
森林を新しい仕事につなぐ「森業」
林野庁の藤代氏が紹介したのは、新たな政策概念である「森業(もりぎょう)」だ。
森業とは、文化、健康、観光、教育、環境保全など、森林がもたらす多様な価値を生かして人と森林との関係を深め、林業と相まって森林所有者に利益を生み出し、豊かな森林づくりにつなげる取り組みである。木材を生産する林業に加え、森林空間を観光、健康、教育、企業研修、森林づくりなどに活用し、山村地域に新たな仕事や収入、関係人口を生み出していく。
森林浴、森林セラピー、トレイル、環境教育、森づくりなど、各地にはすでに多様な実践がある。森業は、まったく新しい活動を一から始めるというより、既存の取り組みを一つの言葉で束ね、異業種や企業が森林と関わるための「取っ手」を付けるものともいえる。
企業の健康経営や人材育成、社員研修に森林を利用することにも可能性がある。企業や生活者が「森でこのようなことをしたい」と声を上げれば、新たな森林利用を求める森林所有者や自治体との出会いが生まれる。林野庁は、森林空間の利用を進めるため、地域への支援、企業などの需要創出、地域と利用者を結ぶ交流拡大の三つを柱としている。森林を使う側と受け入れる側を結ぶことも、森業の重要な役割となる。
スポーツの「量」から、楽しさとつながりへ
スポーツ庁の中山氏は、現在策定中の第4期スポーツ基本計画を中心に説明した。
新たな計画では、健康のために運動量を増やすことだけでなく、スポーツの楽しさや意義を実感すること、人と一緒に行う喜び、多様な形でスポーツに親しむことを重視する方向が示されている。特に課題となるのが、学生から子育て・働き盛り世代にかけてのスポーツ実施率である。職場で運動・スポーツを活用した取り組みが行われている人は、そうでない人よりスポーツ実施率が高いという調査結果も紹介された。
企業に求められるのは、運動を福利厚生だけで捉えないことである。人手不足、離職、生産性、従業員の心身の不調といった経営課題に対し、スポーツを一つの解決手段として活用する視点が必要になる。動きやすい靴で通勤し、自然に歩く機会を増やす「SU-PRO」のように、「運動しなければならない」と感じさせない入口も重要である。スポーツを日常生活のなかへ無理なく組み込むことで、これまで運動に関心の薄かった層にも参加を広げることができる。
省庁の政策を、地域で掛け合わせる
後半の意見交換では、温泉、森林、スポーツに共通するウェルビーイングという視点を、省庁横断の取り組みへ発展させられるかが話題となった。国の制度や予算は分野ごとに設計されているため、横断的な政策には難しさもある。一方、地域の現場では、温泉地に森があり、そのなかを歩き、人と一緒に身体を動かすなど、三つの分野は自然につながっている。
環境省、農林水産省、国土交通省が所管する「自然共生サイト」や、林野庁が関係省庁と連携して補助事業や活用事例を整理・発信する取り組みなど、省庁連携の実例も示された。
スポーツ庁からも、健康経営では経済産業省、健康診断や健康づくりでは厚生労働省など、他省庁との接点が挙げられた。
JWMの視点――生活者を主語に地域資源を再編集する
日本には、温泉、森林、スポーツをはじめ、ウェルネスにつながる資源が豊富にある。しかし、それぞれが所管や業界ごとに分かれているだけでは、生活者に一つの価値として届きにくい。生活者を主語に置けば、温泉に入り、森を歩き、人と身体を動かし、地域の食や文化に触れるという、一連の滞在や暮らしとして結び直すことができる。
ウェルネスは、新しい健康サービスを付け加えることだけではない。地域にすでにある資源を、健康、楽しさ、交流、仕事へつなぎ直すことでもある。国の政策を知り、自治体や企業が地域の実情に合わせてそれらを掛け合わせる。その橋渡しに、Jウエルネスが果たせる役割がある。
取材・文/江渕 敦(J-Wellness Media)
※第4期スポーツ基本計画に関する内容は、セミナー開催時点の策定状況に基づきます。
➡次回9月15日 第57回Jウエルネス研究セミナー「骨太の方針2026から読み解くJウエルネス」(第2弾)のお申し込みは https://peatix.com/event/5155648
